協賛の効果を説明するとき、「露出量」や「認知度」だけでは語りきれない価値があります。地域とのつながり、健康増進、教育や育成への貢献――これらは財務諸表には載らないものの、企業やクラブが協賛を通じて生み出している「社会的価値」です。
この社会的価値を数字で示す手法が SROI(Social Return on Investment/社会的投資収益率) です。この記事では、SROIの定義から、数字を扱ううえで押さえておきたい注意点までを整理します。
SROIとは何か — 定義と判定軸
SROIは、財務会計に載らない社会的・環境的な価値を貨幣換算し、「投じた資源」に対して「生み出された社会的価値」を比率で示す手法です。2000年代に米国の非営利支援団体が原型を作り、英国政府が指針を発行したのを機に国際的に広がりました。現在は国際団体(Social Value International)が標準を維持しています。
SROIの判定軸はシンプルです。
- 比率が1を上回れば、投じた資源に対して社会的価値がプラスに出ている
- 1を下回れば、投じた資源に見合う社会的価値が確認できていない
財務的ROIとの違い(混同しがちなポイント)
SROIは「社会的便益 ÷ 総費用」で算出される考え方であり、チケット収入やスポンサー収入のような財務的なリターンとは別物です。「投資を◯倍回収した」という財務的な意味ではありません。この違いを最初に押さえておかないと、経営層への説明で混乱を招きやすくなります。
SROIの7原則 — 過大主張を防ぐ仕組み
SROIには、算出の妥当性を担保するための7つの原則があります。
- ステークホルダーを巻き込む
- 何が変化したかを理解する
- 重要なものに価値をつける
- 重要なものだけを含める
- 過大に主張しない
- 透明性を保つ
- 結果を検証する
これらの原則の中でも特に重要なのが「過大に主張しない」という考え方です。SROIは「良い話を大きく見せる指標」ではなく、後述する調整によって水増しを構造的に防ぐ仕組みを持っています。
4つの調整 — 数字の信頼性を担保する肝
SROIの算出では、「協賛のおかげ」を過大評価しないために、以下の4つの調整を行います。
- デッドウェイト: その施策がなくても起きていたであろう変化の割合を差し引く
- アトリビューション: 成果のうち、他の要因ではなくその施策に帰属できる割合を見極める
- ディスプレイスメント: 新しく価値を生んだのか、他の活動を単に移動させただけかを調整する
- ドロップオフ: 時間の経過とともに成果が薄れていく度合いを織り込む
この4つの調整があるからこそ、SROIは「感覚的な良い話」ではなく、検証可能な数字として扱えます。社内で「社会的価値の話は水増しではないか」と警戒された場合、この仕組みを説明材料にできます。
海外・国内のSROI相場感(幅で見る)
SROIの比率は、対象領域や算出方法によって大きく変動します。海外のスポーツ・身体活動に関する調査では、投資額に対して社会的価値が1倍台後半という報告がある一方、対象や手法が異なる系統的レビューでは、数倍から100倍を超える幅で報告されるケースもあります。
この幅の大きさ自体が重要な情報です。 SROIは算出の前提(何を対象にするか、どの財務プロキシを使うか)によって数値が大きく変わるため、単体の比率だけを見て組織間を単純比較するのは適切ではありません。日本国内のスポーツ団体・クラブによる公開事例も、それぞれ手法や対象範囲が異なります(クラブのホームタウン活動への具体的な当てはめ方は「クラブの社会的価値をSROIで示す」で解説しています)。
なぜ今、企業がSROIに取り組むべきか
近年、企業の非財務情報を開示する制度が国内で整備されつつあります。有価証券報告書における人的資本情報の記載義務化や、財務・非財務情報を統合して語るための経済産業省のガイダンスなど、「数字で語れない価値」を可視化する動きが広がっています。
協賛を「広告費」としてだけでなく「社会的価値を生む投資」として経営層や株主に説明したい企業にとって、SROIはその説明を後押しする材料になります。
SROIを社内で使うときの注意点
- 単体の比率だけで押し切らない: 算出の前提(対象範囲・財務プロキシ・調整内容)とセットで示す
- 他社・他クラブと単純比較しない: 手法や対象が異なれば数字も変わるため、「自社の文脈で測る」ことが前提
- 財務的な回収と混同しない: SROIはあくまで社会的便益の比率であり、財務的なリターンを保証するものではない
まとめ
SROIは、協賛が生み出す社会的価値を貨幣換算し、比率という形で「1を上回るかどうか」で判定する手法です。7原則と4つの調整により過大主張を防ぐ構造を持っており、非財務情報開示が進む中で、協賛を投資として説明する材料になり得ます。ただし、比率の幅は前提によって大きく変わるため、算出根拠とセットで扱うことが欠かせません。

